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東南アジアの経済ハブであるタイの首都バンコクは、長年にわたり製造業の中心地として発展してきました。近年では産業構造の多様化と高付加価値化が進み、デジタル産業やサービス業の進出が加速しています。さらに、中間層の購買力向上を背景に、中小企業や個人事業主の参入も増加しています。
こうした新規進出企業の多くが、最初の拠点として「サービスオフィス」を選択するのが主流となっています。さらに既存企業も柔軟な働き方を推進する目的でサテライトオフィスとして活用するケースが増え、その需要は拡大を続けています。
本稿では、バンコクでサービスオフィスを検討する際に役立つ基礎知識から最適なオフィス選びのポイントまで、詳しく解説します!
通常のオフィスビルのスケルトンのスペースを賃貸する場合、物件の内覧から事業開始までには、賃貸契約(オファーレター締結 & 本契約締結)、内装設計、施工申請、工事期間など、最低でも4〜5ヶ月を要します。一方、サービスオフィスは内装や家具、ITインフラがすべて完備されているため、内覧から最短2週間で業務を開始できます。このスピード感は、ビジネスチャンスを逃さない上で大きな強みとなります。
スタートアップや新規拠点開設時には、将来の人員規模や事業計画が不透明なことも多いものです。そのような状況においてトピックになることは、その事業拠点に初期投資をどれくらい行うべきかという点と、将来的な状況の変化に柔軟に対応が可能かという点になります。
例えば通常のオフィスビルから100㎡のスペースを賃貸し、内装、家具、ネットワーク機器を揃えた場合、最低200万THB前後の費用は必要になり、また、その100㎡のオフィスから退去する際に発生する原状回復費用もおおよそ50万THB前後は見込んでおく必要があります。
一方でサービスオフィスにおいて占有する個室賃料の平米単価は、通常のオフィスビル賃料の平米単価と比較すると約2.5~3倍になりますので割高に感じるかもしれませんが、その分、内装、家具、ネットワーク機器等の初期投資はかからず、退去時も1~2万THB前後のクリーニング費用のみになります。
サービスオフィスの契約期間においても、エージェントを介して複数物件の内覧同行、日本語での契約書内容のご説明や各交渉、第三者的観点で各物件のメリットデメリットの説明等のサポートをご希望される場合は初回は12ヶ月契約~になることが多いですが、契約更新時は状況にあわせて数か月単位での更新が可能になります。
また、契約期間中であってもお部屋サイズを大きくすることは空室があれば随時行うことができます。通常のオフィスビルの場合は原則3年契約になり、途中解約の場合は保証金の没収と残存期間の賃料の支払い義務が生じます。
結論、2~3年先までの計画がクリアになっている場合は、最初から通常のオフィスビルを賃貸、または、サービスオフィスに1年ほど拠点を構えられて、その後に通常のオフィスビルを賃貸が経済的になりますが、そうでない場合はサービスオフィスに拠点を構えられて事業展開の様子をみられてから判断されることをお勧めします。
どちらの判断が経済的か否か等は、不動産仲介業者でコストシミュレーションが可能です。
日本からタイへ新規進出の場合、事業拠点の賃貸契約の際にタイの会社登記が完了していない場合がほとんどですが、通常のオフィスビルのスペースを賃貸する際には、タイ法人名での契約になり、タイの会社登記簿の提出が求められます。
一方で会社登記をタイ商務省で行う際には、事業拠点として登録する住所のビルオーナーが発行するコンセントレター(建物使用許可書)や、ビルのタビアンバーン、登録用マップ等の各種法的資料の提出が必要になり、それらの資料は原則(*注1)はビルとの賃貸契約完了後にのみ発行が可能になります。
そのため、タイへ新規進出で登記が完了していない状態で、通常のオフィスビルのスペースの賃貸借契約を行うことは、賃貸借契約の為に会社登記が必要で、会社登記には賃貸借契約が必要といった鶏が先か卵が先かの状態になります。
その点では、サービスオフィスの賃貸契約の場合、タイでの登記が完了していない状態でも日本本社名名義と本社住所、または個人名での契約が可能です。これにより先にサービスオフィスとの賃貸借契約を完了させ、サービスオフィスを介してサービスオフィスが入るビルのオーナーから会社登記に必要な各種資料を入手し、会社登記やVAT・社会保険登録まで(*注2)スムーズに行うことが可能です。
新規進出企業のほとんどが、最初の事業拠点としてサービスオフィスを選択するのが主流な主な理由はこの点にあります。
(注1) オフィスビルによっては、賃貸借契約と会社登記の手続きを同時に行うことを許可される場合がありますが、竣工年度が浅い最新のビル程、形式的なリスクに敏感なため応じていただけないことも多く、物件の選択肢を絞ってしまうことになります。可能な場合でも詳細な手順はビルによって異なり、タイの法人登録の前に行う会社名の予約証をもとにオファーレターの入手/締結を行い、登記に必要な書類をビルから入手しタイでの会社登記を完了させて、その会社登記で本契約のステップへ進むケースや、日本法人の登記簿を公証翻訳のうえ、日本の法人名と住所でオファーレターの入手/締結を行うパターン等多岐にわたります。 各種資料を発行するビルオーナーと、会社登記を行う商務省の、こちら側でコントロールができない2つの機関が絡み、契約行為中の非常に限られた期間で登記を確実に完了させる精密なスケジュール調整も要しますので、可能ではありますが弊社ではあまりお勧めはしておりません。
(注2) 近年、マネーロンダリングを目的としたペーパーカンパニーにサービスオフィスが利用されることが多く、特にVAT登録申請時の税務署の審査が非常に厳しい傾向にあります。VAT登録が無事に完了できたとしても抜き打ち現場監査で個室オフィスの実態を持たないことが発覚し、登録を破棄されることも散見されています。抜き打ち監査でチェックされる内容は、担当官によっても判断は分かれますが主に以下のポイントになります。
+ 5名以上の個室の有無
個室の契約がなく、サービスオフィス内のコワーキングスペース利用のみの契約の場合はVAT登録が却下されることが大半になります。個室契約があったとしても、外資企業の場合は外国人の採用1名に対して4名のタイ人の雇用が必要というタイの就労ビザや労働許可に紐づくレギュレーション(BOI取得企業や駐在員事務所登録の場合を除く)に沿って、税務上のレギュレーションではございませんが、例えば2~4名の5名に満たない個室契約の場合は、外資企業としての運営が出来ないと判断されVAT登録を却下されるケースも散見されます。
+ 個室ドアに会社名の表記
サービスオフィスによっては無料で会社名の表記を個室のドアに行っていただける場合と、有料の場合とがございますが、個室ドアに会社名の表記は必須項目になります。
+ 1年以上の賃貸契約期間
VAT登録時には、建物オーナーが発行するコンセントレター(建物使用許可書)や、ビルのタビアンバーン、登録用マップ等の各種法的資料の提出が必要になり、会社登記用のそれらの資料は半年契約でも発行される場合もありますが、VAT登録用のものは基本1年契約以上で発行されます。また税務署も、会社の実態が継続的に運営されているか否かを確認するので、この点でも1年以上の契約期間が目安になります。
※ この数年、バンコクの税務署管轄エリア3において、サービスオフィス内のコワーキングスペース利用のみの契約者に対してのVAT登録が横行し過ぎたことが発覚し、エリア3(チットロム~プルンチット~サムヤーン周辺)のサービスオフィスからのVAT新規登録が、5名以上の個室契約を1年以上の期間で契約していた場合でも却下される、または何度も申請をしてようやく許可されるといった状況にあります。 この状況は2024年後半から2025年前半の時期には改善されていましたが、2025年後半より再発しており、VAT登録ができないため移転を余儀なくされるケースをよく耳にします。2025年9月以降にエリア3の税務署のトップが交代する様なので、そのタイミングで改めて改善される可能性がございますが、サービスオフィスでVAT登録までされる前提の新規進出のお客様へはエリア3を避けるように弊社ではご案内しています。
占有の執務用個室を主体とした「完全なオフィス機能」を提供する空間です。家具や通信設備、共有の会議室といったインフラがすべて完備されており、受付や清掃サービスなども包括的に提供されます。入居者は契約後すぐに業務を開始でき、自社で什器や設備を揃える必要がありません。プライベートな執務空間を確保しつつ、オフィスの運営にかかる手間とコストを最小限に抑えられることが特徴です。
1年以上の期間での契約で、会社登記に加えてVAT登録が可能になります。VAT登録の要件については上段の(注意2)の内容を要ご確認ください。
バーチャルオフィスは、物理的な空間を持たず、「住所や電話番号」のみを借りるサービスです。実際にオフィスを利用することはできませんが、法人登記や郵便物の受け取り、電話応対といったビジネスに必要な機能を提供します。コストを大幅に抑えることは出来ますが、あくまで形式的な住所を確保するためのサービスであり、実際に働く場所ではないという点には注意が必要です。
バーチャルオフィスサービスが主体の運営会社がサービス提供するパターンと、占有の執務用個室を持つサービスオフィスがオプションとして提供するパターンがあり、物件にもよりますが半年以上の契約で会社登記が可能になることが多くなります。ただし、会社登記を担当されるコンサルティング会社の判断によっては、個室の契約でないと登記はできないと判断されるケールも多く、バーチャルオフィスで登記が可能と謳われていても、それをバーチャルオフィスで確実に保証するものではないことには注意が必要です。
また、バーチャルオフィスの運営会社やサービスオフィスにおいて、バーチャルオフィス契約で会社登記に加えて「VAT登録」も可能と謳われていることもございますが、原則VAT登録は出来ないという認識で進められることを推奨いたします。会社登記だけされてVAT登録はされないという状況は新規進出時には考えにくく、また、不安定要素も多いため、特段のご事情がございません限り弊社ではバーチャルオフィス契約は推奨しておりません。
コワーキングスペースは、1つの大きなオープン空間を共同で利用できるサービスになります。席は基本的にフリーアドレス制になります。コワーキングスペースのみを提供する運営会社は少なく、サービスオフィス内の一角にコワーキングスペースが設けられているパターンが多くなります。バーチャルオフィス同様に半年以上の契約で会社登記が可能になることが多いですが、VAT登録は原則できません。会社登記だけされてVAT登録はされないという状況は新規進出時には考えにくいため、コワーキングスペースのみのご紹介のケースは非常に稀になります。
サービスオフィス選びで失敗しないためには、いくつかのポイントを確認しておくことが大切です。以下に、検討時に重視すべきポイントを整理しました。
お客様に訪問いただく際もですが、従業員の通勤においても、駅から徒歩数分以内、または駅に直結しているか否かのアクセス面は非常に大事なポイントになります。また、ビルのエントランスや共有エリアの綺麗さはお客様・従業員の双方からの企業へのイメージに直結しますので一定の清潔感があり、知名度もあるビルに入るサービスオフィスを選択されることをお勧めします。タイ人スタッフさまが就職・転職される際にも、このポイントはお給与の次に重要な軸になることが多くなりますので、抑えておくことで採用面でのアドバンテージも高くなります。
一方で車で郊外のお客様拠点へ訪問が多い企業の場合、渋滞エリアかや高速の乗り場に近いかも重要なポイントになります。駅からのアクセスが良くても、特にプロンポンやアソークエリアは渋滞が非常にひどいエリアになりますので営業スタイルによっては注意が必要になります。
サービスオフィスが入るビルの竣工年数の浅さと、駅からのアクセスの良さに比例してサービスオフィスの賃料もあがる傾向になります。サービスオフィスのブランドによってもベース価格は異なりますので、ご予算と優先すべき要件とのバランスを鑑みての選択が必要になるため、エージェントからの第三者視点を踏まえたアドバイスを参考にされることをお勧めします。
エージェントを介して複数物件の内覧同行、日本語での契約書内容のご説明や各交渉、第三者的観点で各物件のメリットデメリットの説明等のサポートをご希望される場合は初回は12ヶ月契約~になることが多いですが、契約更新時は状況にあわせて数か月単位での更新が可能になります。
契約期間を短くすることで流動性を高めることが可能ですが、短期間契約時の賃料は1年契約時より割高に設定されていることと、更新時には市場価格を鑑みて賃料が上がる可能性もあるので、その機会を貸主に短期間で与えてしまうことになる点には注意が必要です。
会社登記は物件にもよっては半年契約から可能なケースが多いですが、VATや社会保険の登録もする場合は原則1年契約からになります。
共有のMTGルームの数や使用料金(平均800THB~ / H、お部屋サイズやサービスオフィスによって異なります)の確認は、MTGの頻度が多い企業様の場合は確認が必要です。コワーキングスペースを広く設けているサービスオフィスの場合、周りに迷惑がかからない騒音レベルの打合せであればコワーキングスペースで無料で実施が可能になり、また、コワーキングスペースの重質は執務個室以外で業務を行う働き方の多様化にも対応が可能なため、併せての確認をお勧めします。
サービスオフィスやお部屋の広さによって異なりますが、通常は1万THB前後が一般的な価格になります。退去費用が賃料の数ヶ月分等の高額な設定をしているメジャーなサービスオフィスもございますが、その費用をめぐってのトラブルが目立ちますので、その様なサービスオフィスのご紹介は弊社では避けております。
サービスオフィスの契約開始時期は、内覧後にサービスオフィスとお部屋選定が完了し契約行為を開始したタイミングから、先に延ばせたとしても1.5ヶ月~2ヶ月先までが目安になります。また、サービスオフィスは契約締結までの時間が短く、ハードルも低いため、空室状況が週単位の短期間で変動します。
そのため、契約開始予定時期から2ヶ月以上前に内覧を行った場合、いざ契約行為を開始したタイミングでは内覧をされたお部屋は契約済みで、別のお部屋や他のサービスオフィスを再度内覧いただくことになってしまうので、契約開始予定時期と内覧のタイミングは調整が必要になります。契約開始予定時期より前に契約開始させて空家賃を負担されても構いません場合は、前倒しでの内覧でも問題はございません。